い ろ な ぶ り

tsubaki rocka
最後の恋人
 地球はもうとっくにおじいちゃんで、大人達は疲れきっている。
 僕らは丘の上から夕焼け色のコンクリート群を見下ろして、ブランコをこいでいる。

 彼女の名はみゆき、僕の名は達郎。
 きしむブランコをこぎながら、大人達から災厄の種を引き継ぐのを待っている。

 「ねえ達郎。わたしたち、早く赤ちゃんを産みましょうよ。」
 みゆきの唐突な言葉に、僕は返事もできずにみゆきを見た。
 「わたし早く赤ちゃんが欲しいわ。」
 「でもみゆき、この国では勝手に子供を産めないって知ってるだろ?」
 僕はみゆきの長い黒髪を撫でながら、彼女をなだめすかそうとその黒い瞳を見つめた。こう
いう時の僕はずるい。男として女がどうすれば自分の言う事を聞くのか、本能的に悟っている。
 「大人たちは神様に逆らいたいのよ。」
 「え?」
 みゆきは眼前に広がるコンクリート群を見下ろして微笑んだ。
 「神様はまだ人間を創っている途中なのよ。ここは神様の工作台。わたしたちは土人形。
そうじゃなかったら死んだりしないわ。」
 粘土をこねて人形を作る真似をして、みゆきはまっすぐ僕を見つめた。
 「昔の人たちは80歳まで生きたって言うじゃない。わたしたちの2倍だわ。資源もまだ
豊富だったようだし、世界中にはもっともっとたくさんの人がいたって言うでしょ?神様は
焦り出したのよ。これまでにも何度も人間の寿命を伸ばしたり縮めたりしてきたけれど、
きっとずいぶん正解に近づいてきたのよ。」
 「うーん、ちょっと何言ってるか分かんないな。」
 僕はどうしたらこの話の流れを阻止できるか考え始めていた。美しいみゆきは、瞳を輝か
せて楽しそうにしている。
 「神様はまずたくさんの人間を創ってみたわ。そしてそれをいろんな組み合わせで掛け合わ
せたの。何度も何度もそれを繰り返して、思い通りの人間に近い個体の特徴を残しながら厳選
して、いつかは一番良くできた人間、最後の一人を残すつもりよ。」
 「大人は何の関係があるの?」
 「大人は若者が嫌いよ。だって、次の世代はより神様の計画に近いんだから。大人はわた
したちを制御したいのよ。神様の寵愛をより長く受けているために、神様に変わってコソコ
ソ生の管理を始めたのよ。」
 赤かった空はだんだんと紺色を混ぜ始め、コンクリート群には明かりが灯り始めた。エネ
ルギー不足なので、その明かりは工業区のほうにばかり集中していた。しかし丁度作業を終え
る頃なのか、工場の煙突から立ちのぼる煙はだんだん細くなっていくように見えた。
 「わたしたち、神様が潰した人形の泥をかき集めて作り直した人形なのよ。原始のひとつ
になるための一人であり、全体なの。」
 「きみの言う“神様”の計画は今どのあたりまで進んでるの?」
 「うーん、だいぶ進んでいるでしょうけど、きっとまだまだではあるわね。わたしこんな事
考えちゃってるし、神様はこんな悪い子要らないわよ。」
 「考えてない僕は良い子だから、その“神様”とやらに愛されるかな。」
 「ダメよ!達郎はわたしと一緒になるんだから!!」
 僕は思わず声をたてて笑った。みゆきもつられて笑う。
 「きみを愛したら“神様”に叱られるよ。」
 「怖いの?」
 「怖くないさ、信じてないんだから。」
 ほっとしたようにみゆきが微笑む。
 「ねえ達郎、わたしたち、いつか原始のひとつに戻るのよ。わたしがあなたを愛した記憶、
あなたがわたしを愛した記憶、わたしはこの土くれの中にしっかり刻むわ。」
 「きみはいつでも真剣なんだね。」
 「そうよ、道連れができるかどうかの瀬戸際だもの。」
 僕はみゆきの肩を小突いた。みゆきは嬉しそうに身体をよじらせた。
 「きみが宇宙人で、“神様”の計画を邪魔しに来た侵略者だったらどうしよう!」
 「だったら?」
 「どうもしないよ。その気に喰わない“神様”っていうのに一泡吹かせてやるのも楽しそう
だ。」
 「ひどい人!ジゴクに堕ちるわ!!」
 僕は楽しそうなみゆきの笑い声が、闇に落ち行くコンクリート群へ優しく降り注ぐのを見
た気がした。身をよじらせて笑うみゆきの動きにつられて、ブランコがギシギシと鳴っていた。

 地球はもうとっくにおじいちゃんだ。これからもどんどん歳を取るだろう。なるほど“神様”
とやらは焦っているかもしれない。
 終末を避けられないなら、僕らの生きる全ての日々は何をしても無駄に過ぎないのかもしれ
ない。いや、無駄に違いないだろう。
 それでも僕は、“神様”もなかなかできる奴だと思っている。この絶望的な工作台に男と女を
作った彼はなかなかセンスが良い。彼なら“最後の一人”もきっと素晴らしいのを作るだろう。

 みゆきはかわいい。産まれてくる子供もきっとかわいいだろう。
 終末から何も守れない僕は、彼女たちを守ることで僕らの世界くらいは守った気になれる
だろう。そしてきっと、みゆきはそれを幸せと呼ぶだろう。

 深くなって行く夜の闇に、みゆきの瞳だけが明るかった。
| 椿六花 | ものがたり | 02:12 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
白雪姫 


  昔々、わたしたちのおばあさんの、そのまたおばあさんのおばあさんのころのお話かも
しれません。あるところに、静かな森と澄んだ湖に囲まれた美しい土地がありました。

 領主様は強く聡明で、次に領主様になる若様は美しく、立派な青年でした。
 23歳になる若様には、7つ年下の可愛いお嫁さんがいました。
 誰もがうらやむ、雪のように白く透き通るような肌に、冬の闇夜のような深い漆黒の髪。
微笑めば頬に春の花が咲き、その唇はまるで血のように鮮やかで、若様はたいそうお気に
入りでした。
 人目見れば誰もが虜になってしまうそのお嫁さんは「白雪姫」と呼ばれていました。

 若様は白雪姫を、それはそれは愛していました。白雪姫も若様を愛していました。
二人は仲睦まじく、二人並ぶ姿は屋敷に仕える者たちの羨望の的でした。


 若様が春の森から幼い白雪姫を連れて屋敷へ帰ってきたのは、8年前のことでした。
 少女だった姫はいつしか美しい女性へと変わり、深い悲しみと戸惑いを映していた瞳は、
愛と幸せの瞳へと、輝きを変えてゆきました。
 若様は、今でも幼い姫の可憐な姿を思い浮かべ、懐かしんでいました。

 若様は白雪姫を初めて見た日のことを、きっと一生忘れなかったでしょう。

 
 若様の心には、今より白く血の気のない、幼い白雪姫の細い足首が焼き付いていました。



 「かがみよかがみ、かがみさん。この世で一番美しいのはだあれ」
 白雪姫はお母さんがよくやっていたと言い、時々鏡にむかって声をかけました。
 もちろん鏡は答えなど返してはくれませんし、白雪姫も答えのないのはわかっていました。
 それでも白雪姫は鏡に声をかけました。特に、若様がでかけて帰ってこない日などは日に
何度もこの不思議な言葉を鏡に投げかけました。
 そして若様の帰らない日は決まって、その美しい顔を鏡にうつしながら首をかしげて、
不思議そうに自分の顔を眺めるのでした。

 「白雪姫、世界で一番美しいのはお前だよ。」
 領主様は首をかしげる白雪姫に、いつも優しい言葉をかけてやりました。
 白雪姫は領主様の言葉を聞くと、とても安心することができました。

 「白雪姫、お前は本当に美しい。息子は世界で一番の幸せものだよ」
 白雪姫は優しい領主様が大好きでした。




つづく


| 椿六花 | ものがたり | 12:54 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031     
<< July 2017 >>
+ 本館
+ PROFILE
+ twitter
+ SELECTED ENTRIES
+ CATEGORIES
+ ARCHIVES
+ RECENT COMMENTS
+ LINKS